えづくりハウツー ~作品が生まれるまで~

絵をつくるって、とくべつな仕事?


 「絵を描くにはとくべつな才能がいる」「絵を描く人は、個性的で想像力豊か」こんな風に考えたことはないだろうか?素敵な絵を見たとき、この作品は理屈でどうこうしようのない、とくべつな想像力で作られているに違いない。そんな気がするかもしれない。

 今回は、個性的でとくべつな絵をつくる一人であるぽぶこさんの、“えづくり”するための試行錯誤をのぞいていく。


こってりかわいい、ぽぶこさんの不思議な世界

  精巧に描かれた、眠っている女の子。その脇には格子点のような飾りや赤黒い垂らしこみもある。なんとも不思議で、夢うつつな世界。

 ぽぶこさんの作品は、油絵の具の重厚感と親和した、遊び心とちょっぴりの寂寥が魅力だ。その描きぶりは日本史の教科書に載っていた明治美術会の“脂派”を彷彿とさせながら、抽象的な描写と具象的な要素が共存している。そこがどこかかわいらしい。

 しかしこの絵のような場面、現実ではありえないはず。ではどうしてこの作品が描けたのだろうか?

 ぽぶこさんの作品には、材料になるたくさんのドローイングがある。

 ドローイングとは一般に単色使用の線描を指すが、ぽぶこさんのそれは豊かな色彩で描かれている。支持体はA4サイズのコピー用紙で、画材はアクリルガッシュや色鉛筆。具体的なモチーフは少なく、絵全体の印象を大切に作られた即興のお絵かきだ。

 《無題》にある抽象的な要素も、この数多あるドローイングから着想を得ているとのこと。ときには絵の具の試し塗りをしたり、味噌漉しを使って描いたりするような、純粋な遊び心でできたドローイングもあった。


絵は難しく考えすぎない!


 「画材とか、支持体とか、いろいろこだわればいいんだけど、短時間で向き合いやすいのが自分の中で大切だから」とぽぶこさん。らくがきの要領で大量に生み出されたドローイングたちは、頭で難しく悩んだり言葉で整理したりしたものよりも純粋な情報として、ぽぶこさんのとくべつな個性を浮き彫りにしている。

 “えづくり”のヒントは、絵に模写的な上手さや難しい主題を求めすぎないこと。描きたいときに描いた絵を、残しておいて眺める中で、ぽぶこさんは自分自身の個性を発見している。

 あなたも一枚、絵の具であそぶような気持ちでドローイングしてみてほしい。その体験はきっと、あなたの絵画を見る目を変えるだろう。


ぽぶこさんのこれから


 「支持体や画材にとらわれると、わたしはいい絵が描けない」と話すぽぶこさんは、キャンバスに油絵の具で制作することが多い。今後は、それらから飛躍した岩絵の具や版画、またキャンバス以外の支持体に挑戦したいと語る。ぽぶこさんの“こってりかわいい”が、新しい画材でどう展開されていくのか、楽しみでならない。



※ 脂派:脂っぽい印象を与える画面が特徴的な一派。母体は1876年(明治9年)に設置された日本最初の美術教育機関「工部美術学校」の学生たちによる「明治美術会」である。

※ モチーフ:絵画、彫刻などの芸術作品で、表現の動機・きっかけとなった中心的な思想・思い。または、作品を構成する個別の要素。

※ 支持体:絵画の塗膜を支える面を構成する物質。すなわち描画される材料のこと。


ぽぶこ アーティスト。筑波大学芸術専門学群洋画領域3年次在学(2021年時点)。油絵の具を駆使した抽象表現と具象モチーフを織り交ぜた作品を制作している。たまご展出品。(Twitter / Instagram)