てのひらの芸術
てのひらに、ころんと一粒。その一粒ひとつぶが豊かな表情を持ち、私たちの生活を鮮やかにする。タカハシ ナツミさんの、一辺三センチメートルの小さな立方体の作品は、人に届けるべくして制作された作品だ。
—— 一度、「部屋に飾るとしたら、どのくらいの大きさの作品がいいだろうか」と話したことがありましたね。私は、「F0号(18×14㎝)ぐらいだろうか」と答えたけれど、それがまさかこのように形になるとは思わなかったです。
タカハシ この立方体の木材を手に取った時の大きさ、軽さでこれだと決めました。特に、この身近な軽さが気に入っています。手のひらで転がしてもいいし、おてだまなんかもできちゃう。それに、そのときちょうど、「絵画のしがらみから抜け出したい」という気持ちがあったのも影響が大きいと思います。「平面をやめてやる」とさえ思っていたかも。立方体は六つ面があるので、その六面それぞれで違う表情をみせることができる。これはとても面白いことなんじゃないかと思って。
—— まさに、“見る”ためだけではなく、“手に取る”ために作られた作品ですね。販売もしているのですか。
タカハシ はい。もう既に何人かの手には渡っています。貰い手に色を選んでもらったり、私が目をつむってランダムに渡しています。
—— ランダム!自分では選ばないような表情の作品にも出会えそうですね。
タカハシ ランダムで渡すのには、「偶然の出会いを大切にしてほしい」という気持ちもあります。ランダムで渡すことで、「あれ、この色意外と好きかも」とか「この色の組み合わせもいいかも」とか、思いもよらない出会いがたくさんあると思うんです。何より、作品に愛着を持ってもらえたら嬉しい。
—— タカハシさんが愛着を持つ“もの”はどんなものですか?
タカハシ 人から貰ったものは、とりわけ愛着を持って使っていると思います。他人からみた私のイメージというか、この人には私にはこう見えているんだという新鮮な驚きがあって。この作品を友人へのプレゼントとして選んでくださった方もいて、選んだ作品の表す色がきっと受け取る人の人となりを表しているんだろうなって思う場面もありました。
—— 人から人へ。受け取るだけではなく、繋がりを作り出していくような作品ですね。
タカハシ そうですね。この作品は私からの贈り物でもあるので、包装にはとても気を遣っています。お菓子の包み紙みたいに。気持ちはバレンタインの女の子です。
—— このように人の手へと渡っていくと、プロダクトとしての側面が強くなりそうですが、この作品は芸術を芸術たらしめている何かがあるように感じます。なぜでしょうか。
タカハシ 私は、この作品を芸術たらしめているものの一つは“味”にあるんじゃないかと思います。私はこの作品を貰い手に「おいしい!」と思ってもらいたい。私、実は母が美容師なのですが、美容室にいつも「キュービィロップ」っていうアメが置いてあったんです。それを今ふと思い出しました。小さい頃好きだった、キラキラ小さいもののイメージが強いのかもしれません。
—— そういうと、タカハシさんの作品はとてもおいしそうですね。一つひとつ味も違う。
タカハシ だからこそ、流れ作業になってはいけないなと思います。一つひとつ色を変えて、「おいしい!」と思ってもらえるような作品を作りたい。これが結構大変なんですよ。それでも、私はこの作品を通して芸術がもっと身近に、生活の中に溶け込んでいくといいなと思います。
そうして、ピンクとみどり、桜餅のような作品をひとつ手に取る。ちいさな立方体は少しざらざらして手にすっと馴染んでいくようだ。他にもバナナやティラミス、ブルーハワイ……たくさんの味がある。あなたもてのひらに、おひとついかが?
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