子供心をいつまでも

  昨秋成人を迎えたテラダハルキさんは筑波大学芸術専門学群の洋画領域に所属するアーティストだ。同領域の学友として彼女の作品をたびたび鑑賞する機会があったが、様々な要素が重なりあう楽しい画面が魅力的である。油彩画のみならず、最近では版画作品の制作にも意欲的だ。

 幼少期の遊びは絵や工作が多かったことに加え、子供の頃から家族に連れられて美術館を訪れたり、ワークショップに参加したりしていたというハルキさん。彼女にとって芸術はとても身近なものであった。幼少期の体験が大きく彼女の制作に影響を与えている。


平面と立体のはざまで


 ハルキさん曰く、幼少期の芸術鑑賞体験が今の美的価値観に影響しているという。「子供の頃に美術館で見た、絵の具の厚みが5cmくらいある絵画が印象的でした。今思うと子供ながらに楽しめた作品って、やたら絵の具が盛られた絵画とか、インスタレーションとか、体験的なものが含まれる作品だったなって」2019年たまご展に出展した絵画作品は彼女の体験的なアートへの挑戦が見られる作品の一つである。この作品には子供の姿が描かれているのだが、その頭部に突然架空の生き物の形をした布が張り付けられている。「いきなり布が入ることで、なんだこれ!ってなるんですよね。日常に潜む非日常みたいなのが好きです」

 またハルキさんは平面作品に干渉するような立体的要素に興味があるという。「小学生の時に自分がデザインしたものを母親が思い通りに作ってくれたんです。最近では自分の描いたキャラクターをぬいぐるみにしてくれて。やっぱり、自分の描いたものが実体化すると愛おしいんです」平面作品として描いた形が立体化され、それを平面作品としてまた描いていく。ハルキさんは、この平面と立体との間のやりとりに興味を持った。高校の卒業制作では絵画作品の制作に加え、そこに描かれたキャラクターの実体化を試みた。立体と平面のはざまでより良い表現ができないか、模索し続けている。

子供心に耳を傾けて


 「美術の解釈は難しくされがちですが、私は鑑賞する上で子供心を大事にしています」幼い頃から美術鑑賞の経験があるハルキさんは、子供ならではの直感的な感覚で美術作品に触れた当時の記憶を鮮明に覚えており、その感覚が彼女の言う子供心の基盤となっている。前述した平面と立体の要素が混在するような体験的かつ非日常的な作品への興味も、もしかすると彼女の子供心によるものなのかもしれない。

 また、ハルキさんの制作においても子供心が一つの軸となっているようだ。取材の中で特に印象的だった作品が《ちぐはぐ》だ。銅板を顔のパーツに見立てて作られたこの作品は、自由帳に描いた顔や服のパーツをランダムに選択してキャラメイクしていくという、ハルキさんが小学生の頃に流行った遊びから着想を得ているという。「子供ならではの感性って、なんかずるいなーって。今でも子供の頃に描いていたものを模倣することがあるんです。子供の可能性に期待するのと同じように、私の中に秘められた子供心を引き出していくことで自分の可能性にも期待してみたいと思うようになりました」

 彼女は子供の創作と、作品を発表する立場にあるアーティストとしての制作の違いについても語る。「これから理性を持って作品制作をしていく上で、子供心に従って何かを作ることに加えて、コンセプトを持ちつつそれを言語化することも重要だと感じます。自分のやっていることをある程度理解してもらうためにも」


創作することとは

 「自己表現です。むしろ自分の表現方法を、これしか知らないんです」ハルキさんは即答した。一方でネガティブな側面まで自分を投影しすぎないようにしたいとも語っていた。「自分の表現物が暗くなってほしくないので、意識的に明るいものにしています。私にとって作品は自分と同じくらい痛みのあるもの。だからこそ、自分の見られたくない部分は出せません。現実でも自分はできるだけ気丈にふるまっていたいという意識がありますが、それが作品にも出ているのかもしれません」自己表現としての作品だからこそ、彼女の理想の姿が作品に投影されている。子供の持つ感性への羨望も、理想の一部として作品に表れているのではないか。


 子供の目で鑑賞し、子供の心で創作する。きっとこれは幼少期から芸術に親しんでいた彼女の経験が基になっているのだろう。子供の感性を意図的に引き出していくというハルキさんの姿勢は、鑑賞や制作においてとても興味深い。だれもが内に持ち得る“子供心”をくすぐるようなハルキさんの作品制作から、今後も目が離せない。


テラダハルキ 筑波大学芸術専門学群版画領域3年次在学(2021年4月時点)。平面にとらわれない様々な要素を織り交ぜながら、子供ながらの感性を作品として表現しようと試みている。油彩画、版画作品を主に扱う。好きな食べ物はエビフライ。(Twitter / Instagram)