自分のアートを見つけるということ

アイデンティティを定義すること


—— まず、芸術作品におけるアイデンティティとは何を指すことだと思いますか。

 テーマの設定と、あとは表現、つまりは使う道具や技法など、そういった限りのあるもの、ほぼ無限に近いですけど、その組み合わせの中に本人のこだわりがあれば、それがアイデンティティになるんじゃないですかね。

—— それは“「独創性」や「個性」といった言葉との意味としての違い”はあるのでしょうか。

 自己同一性と言い換えられることもあって、アイデンティティは広い意味だと感じていますね。個性や独創性だと、テーマだけ、表現だけにも当てはめることが出来るけれど、そこに多様性を見出すことは相当難しいと思います。やり尽くされていることも多いですからね。だから、その個性の掛け合わせをアイデンティティと呼称することで、大きくその人の括りを確保しているという感じですかね。


自分の性格を知るということ


—— 倫さん自身はどのようなアイデンティティを持っていると思いますか。

 あきらめの悪さ、粘着質とかよく表現されますね。何かこれを表現したいと思ったときに、例えば抽象だったり具象だったり、人物だったり風景だったり、何においても、「あぁここでいいや」ってなるんじゃなくて、粘り強く執着し続ける所が自分のアイデンティティだと思います。こういったところに絵画との繋がりが出てきますね。性格だとか人間性が結果的にテーマの選択とかに関わってくる。

—— 倫さんは、いつ頃自分の粘り強さを自覚しましたか。

 昔から興味持ったことには一直線に行くっていうことを、自分では覚えてないけれど親からよく言われましたね。小学生に上がる前は電車、そのあとは昆虫、年齢上がると鉱物とか数学とか。とにかく興味を持ったら土日は図書館に入り浸ってその分野の本を全部読んじゃうとか、そういうことを飽きずにやっていましたね。

—— 天才肌っていう感じですよね。気になった物には一直線というところが。

 言いすぎじゃないですか。(笑) 自分としては「全然興味ないよ、そんなにやってないよ」っていう人がすごくいい作品を描いたりするから、彼らと比べると、自分はやっぱり足りていないなと感じて一層努力するという感じですね。

捉え方を変えること


—— でもやはり中にはすぐに他のことに目移りしてしまう人もいるわけですが、そういう人の強みはどう捉えられると思いますか。

 物は言いようみたいな感じで、長期的にみると自分はそのタイプなんですよ。今は電車に興味ないし全く忘れちゃっていますし。特に今言っているのはそのスパンが短い人のことですよね。

 でも色々な分野に興味を持てるって、それはすごいことなんじゃないかな。「いや、興味持てなくて入っていけないです」っていうよりも、取り敢えず興味を持って入っていけるのであれば、その分深入りしないまでも広くなっていく部分がありますよね。それは後々武器になると思います。作品制作で言えば、それに対してある程度の知識がつくわけなので、自分の作品にも深みが出てくるだろうし、研究や人との付き合いで言えば、他との共通項を見出せるようになるだとか、その捉え方によって大きな強みになると思います。

—— 今、自分のアイデンティティというものを確立できていないと考えて、中には焦る人もいると思いますが、彼らも将来的にはアイデンティティを確立しなくてはいけませんよね。彼らが自分のアイデンティティを見つけるためには、どうしたらいいでしょうか。

 将来的にとあったように、今すぐに確立する必要はないと思います。確立していたら独創的なものや自分なりのものを描けると思うんだけれど、独創性とか考えずに、どういう絵を描いていきたいのかを悩みながらやっていった結果、出てくればいいんじゃないかな。すぐに目指しても出てくるものじゃないですよね。気付かないこともあるし、吸収して何かがこれから出てくる部分もあるだろうし。なんにせよ、すぐに答えを求めるのはもったいない気がします。

 何においても“自分らしさ”が大切にされる現代では、焦りを感じる人も多いことだろう。特に芸術においては「自分の画風を持ちなさい」「独創性が大切だ」と言われることが多々ある。自分の確固たる目標を持ち、自己実現のために努力しなくてはならない時がすぐそこまで来ている、その重圧に押しつぶされてしまいそうになる。

「目移りしてもいい」「今すぐに確立する必要はない」「結果として出てくればいい」

 倫さんの言葉は、いま、自分が何をすべきか、何をしたいのかが分からないあなたにとって、救いになるのではないだろうか。


 筑波大学芸術専門学群3年次在学(2021年時点)。綿密な計画による、整然とした構成とタッチの絵画作品を得意とする。筑波大学附属病院「けやき棟」において風景画実習の作品を展示中。