絵を描いて生きること
生きた絵を描くこと
りゅう 兄が突然、天山(佐賀県)に登りに行こうと言って。これは天山の頂上からみえた雨山をスケッチしたものです。
—— とても直感的で、清々しいスケッチですね。
りゅう 頂上に登って、360°ぐるっと見渡してから、この構図と決めました。近景はペンで描いて、遠景になるにつれて鉛筆、絵の具の濃淡のコントラストとみせ方にはかなり凝っているんですよ。そうはいっても、心が動くのが先で、「きれい」「かっこいい」「なにこれ」という新鮮な気持ちをそのまま脳から手に、目から絵にと表現したい。本当は、一秒たりとも離れずずっと絵を描いていたいとも思います。「右手が疼く」をこじらせたってわけです。
—— りゅうさんが心を動かされるとき、それはどんなときですか?
りゅう 自分が面白いなと思うものに心を動かされます。コンセントやスイッチ、目に入る全てのもの、自分の見ている世界そのもの。特に“かたち”には拘っていて、写真や記憶ではなく、自分がリアルに手で触れた、手に触れたかたちを表現したい。そのために、構図やかたちにはとても気を遣います。
—— りゅうさんの絵画や素描は非常に精巧なかたちで描かれていますね。
りゅう 絵画も素描も、納得のいくかたちになるまで何度もエスキースを重ねたり、描き直したりします。これはいつでも正しい状態でいたい、という気持ちの表れでもありますが、何よりモチーフを生かすために技術が必要だからです。モチーフが生きている絵には構図やかたち以前の魅力がある。
—— 絵画の中でものは生きている、ということですね。
—— この絵は素描のプロセスで描かれていますね。
りゅう そうですね。友人がうちで呑んで、帰った後の朝の絵。デジタルの描画材で絵を描くにあたって、まずは素描から始めようと描いた作品です。モノクロのペンで描いた後に、画面を擦る、ぼかす。そこに色を重ねて仕上げていく。伯母に依頼されて想像上の龍を描いたときも、素描から始めました。素描は作品に説得力を持たせることができる。素描はモチーフを生かし、なおかつ自分の世界を築く手段になる。
絵を描いて生きること
—— りゅうさんは長く絵画に触れていますね。そんなりゅうさんにとって絵を描くこととは?
りゅう 幼少期から絵画に触れているので、かなり長くなりますね。絵画は切っても切れない存在です。絵を描くことは人生を豊かにしてくれたし、いきがいでもある。
りゅう 振り返ってみると、たくさんの選択の積み重ねで自分の人生が構成されているのだと思います。その中でも、結果的に僕は絵を描くことを選んできた。もし、自分が何人かいたとして、色々な生き方があったと思うんです。絵を描かない自分、絵を知ることのない自分。色々な世界線の自分の中でいちばん絵を描くことを決定してきた自分が、今の自分そのものです。絵を描いて生きてきた、と思います。
数多くある人生の交差点で、人は小さな決定を繰り返しながら生きている。絵を描く人生、絵を描かない人生、絵を知ることのない人生……。絵を描くことを選んだひとりの人間の姿に、あなたは何をみつめるだろうか。
りゅう 筑波大学芸術専門学群洋画領域3年次在学 (2021年時点)。精微な観察をもとに、ものの形態を複合的に捉えた油彩画を制作している。全日本学生美術展、佐賀県美術協会展など。 (Instagram)
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