絵画の面白いはなし
物心が付いたときから絵を描いている。なぜ絵を描いているのか、絵画とはいったい何なのか。かつて、床にケチャップで絵を描いていた少女は今、「絵画」に思いを馳せる。
はじめての絵画
おふう 私、大学に入って領域(※学問分野の専攻のこと)に迷いだしたとき、自分がいかに絵画にこだわってきたかを自覚したんだ。芸術には、立体造形やデザインなどたくさんの表現手法がある。その中でなんで絵画にこだわるのか、絵画って結局なんだろう。例えば、こう考えたことはない?「初めて絵を描いたヒトがいたとして、なぜ絵を描いたんだろう」って。
倫 何かを伝える手段とか、後世に残すためとか……。
おふう 他者に何かを伝える手段っていうのは、ひとつ考えられるね。
りゅう 象形文字とかはその代表的なものだよね。何かを伝えるための絵が文字になった。後世に残すためか……。僕は中学生のとき、「将来、僕の絵が発掘されたらどうしよう」って考えていたことがあるな。
おふう 油絵は数百年もつって言われるからね。
タカハシ 考えたことないかも。(笑)
倫 でも、それよりも絵を描く動機としては小学生が落書きするときみたいな、根源的な欲求の方が大きそうだね。発達段階でいうと、小さい子が手を動かしたがるのは欲求に基づいているということとか。土器があんな派手なのも、なにかしら「表現したい」っていう欲求が人間にはあるのかもしれない。
おふう なるほど、表現の動機はもっと根源的なところにあるのかもしれないね。みんなは初めて絵を描いた、描くことを自覚した記憶ってある?
りゅう 幼稚園のときかな。手を描いてたら「あれ、なんかたくさんしわがみえるな」って思って。見えるしわを全部描いたら、おじいさんみたいにしわしわな手になってしまったよね。
おふう しわしわな幼稚園児の手、面白いね。インタビュー(絵を描いて生きること, 2021)でも書いた通り、りゅうは絵画において「見る」ことに重きを置いているよね。
倫 それで言うと僕は「見えているものと描いたものが違う」ってことに少し苦しさを感じていたな。5、6歳のときに描いた自画像とか……。
おふう その年で既に写実性に目覚めていたんだね。できあがってる。(笑)
倫 その反面、見えたものをそのままに描くことができたときの喜びはひとしおだね。
おふう タカハシはどうだろう?
タカハシ 私はずっと部屋にこもって絵ばかり描いていたな。その頃から小さいもの、かわいいものが好きで。すごくファンタジーな絵を描いたりとか……。
おふう そこから、今のタカハシに繋がる個性もみられるね。幼少期の体験って、純粋に個性を映し出す鏡のようなものなのかもしれない。侮れないね。
絵画のふくらみ
おふう ここにいるみんなが絵画を学んでいるね。みんなが絵画にこだわる理由ってなんだろう?
りゅう 空気、かな。例えば、立体作品はその作品の周囲に空間を孕んでる。でもそれは“箱庭”みたいな空気で、世界の一部でしかない。絵画は、その中にどこまでも続く奥行きがある気がする。
おふう そういえば、この間授業で面白い話を聞いたな。「絵画はイリュージョン(※二次元平面に描かれた絵画が、三次元的な奥行を持った空間として観者に意識されること)と切り離せない」。この話に基づくと、絵画はその中に何かしらの世界を表現しているものってことになるね。絵画は虚構を具現化する手段のひとつと解釈できる。
タカハシ イリュージョン……。
りゅう ないけどある。
おふう それだ。絵画の中には、「絵画世界」と言われるような空間があるよね。そこでは何でも実現できる。現実に存在しないものさえも。一方で、絵画は支持体に縛られるという制約がある。タカハシは「絵画のしがらみを抜け出したい」って言ってたね。それで出来上がったのが、あの立方体の作品。(てのひらの芸術, 2021)
タカハシ 支持体とか、画材とか、平面作品に何かしらの苦しさを感じていたのかもしれない。
おふう 支持体は絵画の唯一の縛りであるとともに、絵画を絵画たらしめているものなのかもしれないね。
倫 それなら僕は逆だ。絵画には数知れない可能性がある、だから興味が尽きない。数百年の歴史が示すように、画材一つとっても学ぶことが沢山ある。
おふう ミクロな視点で見ると、そうだね。絵画世界においても、その構成物においても可能性は無限大だ。
りゅう 何よりも絵画はその手軽さが魅力だね。紙と鉛筆さえあれば表現できる。
倫 もっとも直感的な表現手法だね。
おふう 絵画のふくらみとでもいうのかな。私たちは紙と鉛筆ひとつで世界を創り出すことも出来るし、絵画の長い歴史と対話することもできる。その懐の深さが絵画の魅力なのかもしれないね。
おふう 筑波大学芸術専門学群洋画領域3年次在学(2021年時点)。 本文のライター。
タカハシ ナツミ 筑波大学芸術専門学群日本画領域3年次在学(2021年時点)。 「てのひらの芸術」(タカハシ ナツミ/おふう)初出。
りゅう 筑波大学芸術専門学群版画領域3年次在学(2021年時点)。 「絵を描いて生きること」(りゅう/おふう)初出。
倫 筑波大学芸術専門学群洋画領域3年次在学(2021年時点)。 「自分のアートを見つけるということ」(倫/おせう)初出。
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